将棋Webでは、CPU対局や局面の検討に用いる思考エンジンとして、オープンソースで公開されている「やねうら王」を利用しています。この記事では、やねうら王が採用しているライセンスと、本サイトのような Web サービスとしての提供形態との関係について、条文を引きながら整理しておきます。ライセンスの解釈は立場によって幅がありうるため、ここでは特定の主張をするのではなく、根拠となる文面を示すことを目的としています。
利用しているソフトウェアとライセンス
やねうら王は、コンピュータ将棋の思考エンジンとして広く使われているオープンソースソフトウェアです。その多くのコードは、チェスエンジン Stockfish に由来しています。Stockfish が GNU General Public License, version 3(GPLv3) で公開されていることを受け、やねうら王もそのライセンス、すなわち GPLv3 に従う形で公開されています。
本サイトは、この GPLv3 のもとで公開されているエンジンを、感謝とともに利用させていただいています。まずはこの点を前提として共有しておきます。
GPLv3 における「配布(convey)」とは
GPLv3 では、ソースコードの開示に関する義務が発生する起点を「配布(convey)」という行為に置いています。この語は、ライセンス本文の冒頭にある「第0条(Definitions)」で次のように定義されています。
To “convey” a work means any kind of propagation that enables other parties to make or receive copies. Mere interaction with a user through a computer network, with no transfer of a copy, is not conveying.
GNU General Public License, Version 3, Section 0 (Definitions) より
大意としては、「convey(配布・伝達)とは、他者が複製を作成したり受け取ったりできるようにする一切の伝播行為を指す。コンピュータネットワークを介したユーザーとの単なるやり取りであって、複製の転送を伴わないものは convey には当たらない」という内容です。
GPLv3 においてソースコード開示の義務が生じるのは、この「convey(配布)」を行った場合です。逆に言えば、複製の転送を伴わない利用形態は、この定義上の配布には該当しません。
Webサービスとしての提供と開示義務の関係
本サイトは、エンジンをサーバー上で動作させ、利用者にはブラウザや API を通じて対局・検討の結果を返す形でサービスを提供しています。この形態では、エンジンのプログラムそのものの複製が利用者の端末へ渡ることはありません。
先の第0条の定義に照らすと、こうした「ネットワーク越しの利用」は convey(配布)には当たらないと読めます。GPLv3 が開示義務の起点としているのは配布であるため、サーバー上で動作させて結果のみを返す提供形態そのものが、直ちにサーバー側・クライアント側プログラムの一般公開を求めるものではない、という整理になります。
AGPL との違い
「ネットワーク越しにサービスとして提供する場合にもソースコードの開示を求める」という趣旨の規定は、GPLv3 本体ではなく、別のライセンスである GNU Affero General Public License(AGPL) に置かれています。AGPL には、利用者がネットワーク経由でソフトウェアを操作している場合に、その利用者へソースコードを提供する機会を与えることを求める条項(第13条)が含まれています。
やねうら王が採用しているのは GPLv3 であり、AGPL ではありません。したがって、AGPL に固有のネットワーク利用に関する開示条項は、本サイトには適用されません。この違いが、Webサービスとしての提供にあたって開示義務が生じるかどうかを分ける要点です。
開示義務が生じる場合について
一方で、GPLv3 のもとでも「配布」に当たる行為を行えば、当然ながらライセンスの条件に従うことになります。たとえば次のような場合です。
- エンジンを組み込んだクライアントアプリなどを、利用者の端末にインストールする形で配布する場合。
- エンジンを含んだソフトウェアやシステムを、パッケージやサーバーごと第三者へ引き渡す(配布・譲渡する)場合。
これらは第0条の定義上の convey に該当し得るため、その範囲では GPLv3 の条件に従うことになります。本サイトは現時点でこうした配布は行っておらず、あくまでサーバー上で動作させたエンジンの結果を Web 経由で提供する形をとっています。
本サイトの立場
以上の整理から、本サイトがやねうら王を用いて Web 上で対局・検討サービスを提供している現在の形態については、GPLv3 のもとでサーバー側・クライアント側プログラムを一般に公開する義務は生じない、と考えています。
そのうえで本サイトは、優れたオープンソースソフトウェアの成果に敬意を持ち、ライセンスの趣旨を尊重して運営していきます。今後、配布に該当する提供形態を新たに行う場合には、そのときの条件に従って適切に対応します。ライセンスに関してお気づきの点やご指摘があれば、真摯に確認させていただきます。
参照
- やねうら王 開発者ブログ「連載やねうら王miniを強くしよう!2日目」 — 「Stockfishのライセンスに倣い、GPLv3にしようと思います」と、公開当初より GPLv3 を採用する旨が示されています。
- やねうら王 GitHub リポジトリ — ライセンス表記(GPLv3)。
本記事はライセンスの一般的な考え方を整理したものであり、法的助言ではありません。個別の判断にあたっては、必要に応じて各ライセンスの原文や専門家の見解をご確認ください。